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 コラム 第44回     2008. 2. 26

味覚のお話

 
今年は、2月に入ると急に寒くなり、東京でも雪が積もりました。先月のコラムで転んで歯を折った患者さんのお話を書きましたが、先日もまた、滑って転んで歯を折った方が来院されました。皆さん、くれぐれも足もとには、お気をつけください。

 さて、最近は食の安全が度々話題になっています。農薬の混入した餃子を食べて中毒症状を起した方々には本当にお気の毒なことでした。一連のニュースの中で、あるお母さんは餃子を口にした途単、吐き出して、子供たちに「食べちゃだめ!」と言ったと書かれていました。このお母さんは、なぜ異変に気付くことが出来たのでしょうか。

 
味覚には甘味、苦味、酸味、塩味があり、近年これにうま味が加わって、この5つが基本味といわれています。食べ物が口に入ると舌にある味蕾(みらい)という器官が反応して大脳に伝わり、甘い苦い酸っぱい塩っぱい、美味しいあるいは不味いなどと感じることになります。鏡で舌を見るとおわかりのように、舌には苺のツブツブのような構造が無数にあります。これが味蕾です。部位によって形は丸状、茸状や糸状などで凸凹しています。しっかり味わうためには味刺激を凸凹の奥まで行き渡らせることが大事です。「噛めば噛むほど味が出る」と言うとおり、よく噛むとサラサラの唾液が出てきて食べ物の味刺激を味蕾に万遍なく届けてくれます。ですから、よく噛まずに飲み込んでしまう早食いは、折角の味わいの機会を失うだけでなく胃への負担も大きくすることにもなり、とても勿体ないことです。

 大脳が発達した人間の味覚は複雑で、体験や学習、記憶や情報などにも影響されます。例えば同じ物を食べても場所や雰囲気などで美味しかったり不味かったり、また子供の頃苦手だった物が大人になったら好物になったり様々です。「舌が肥える」というのも経験を積んで学習し、脳の感知力が鋭くなったということなのでしょう。つまり味覚とは、ただ単に感覚だけで認知されるものではない、と言うことなのです。

 良くないものを口にした時にも味覚は複雑に働きます。以前に食べた時と何か違うという違和感であったり、また口の中に広がる気持ち悪さで嚥下を躊躇させる心理が働いたりします。このような動作に反射機構も加わり、瞬時の判断が働くものなのです。
私たち人間は、経験を踏まえて脳で考えることをしますが、他の動物たちも本能的に反射で同じような回避行動をしています。また動物の中でも霊長類に近づくにしたがって、人と同じように経験による回避が加わってきます。猿の仲間の中には、母親が危険を察知して、子供に悪いものを食べさせない行動をとるものもいます。

 餃子を口にしたお母さんが「食べちゃだめ!」と言ったのも、味覚を介した回避行動によって子供を守ろうとしたのでしょう。母の愛はすごいですね。


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