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 コラム 第93回      2012. 3. 28

基礎は大切です

 卒業シーズンを終えたというのに、今年はまだ桜の蕾が固い状況です。 今週末に父の納骨と母の三回忌で、金沢に行く予定にしておりますが、北陸は今日も雪が舞っているようです。 早く春が来て、気持ちも穏やかになりたいのですが、まだしばらくは辛抱して過ごしましょう。

 寒さが長引くせいか最近は、歯を食いしばりすぎた結果、歯が浮いたり、歯茎が腫れたり、歯が割れたりして来院される方が時々いらっしゃいます。 歯を食いしばっていると、歯の根の先端部分だけでなく、歯を支えている根の周りの骨を圧迫してしまいます。 すると歯と歯を支えている骨の間にある、歯根膜という隙間が広がり、歯が揺れてきてそこへ細菌が進入し、感染を起こして歯茎が化膿してしまう事もあります。

 特に、大臼歯はほとんどが複数の根を持っており、問題を起こすと本来ならば骨に囲まれている根分岐部の骨が吸収されると、 元に戻すのが大変難しくなります。 根分岐部には汚れが溜まりやすく、歯ブラシも届きにくくなります。

 この部分に起こる歯周病を特に根分岐部病変と称して、歯周病の中でも治療の難しいものになります。 むし歯で穴の開いた歯とは違い、歯には見た目に何の変化もなく、歯ブラシを頑張れば初期の段階には一過性のものとして、違和感がなくなります。
 しかし、歯ブラシを怠けたり、寒さで食いしばったり、風邪などで体調がすぐれなかったりと、ぶり返しては消えということを繰り返すうち、 根分岐部の骨は少しづつ吸収されてゆきます。 その頃には、噛むと痛みを感じたり、歯が揺れてよく噛めないということにもなってしまいます。
 虫歯もなく、歯だけを見れば悪いところがないのに、いつの間にか噛めなくなってしまうという厄介な問題を引き起こすのが、 根分岐部病変の怖いところです。 初期から歯を削って冠を被せて歯冠形態を修正するなど、積極的に治療をする事で根分岐部の骨の吸収は進行しにくくなります。 しかし、ブラシを頑張ればすっかり良くなり、一旦は進行が治まります。 そんな理由から、患者さんも歯科医もなかなか積極的な治療に踏み切れずにいて、悪くしてしまい治療が後手に回ってしまうケースもあります。

 このように書いていても、私はやはり天然の歯の状態が一番と考えますので、余程のことがない限り、 初期の段階から歯を削って冠を被せることはせずに、噛み合わせの調整や、エナメル質の範囲内での歯冠形態の修正という治療を選択しています。 或いは、食いしばりや歯ぎしりで病態が進行しないように、マウスガードなどを入れる治療を選択したいと思います。 そして患者さんには、きちんと歯ブラシをして進行を抑えてもらようにします。

 歌舞伎座の工事も基礎工事のうちは遅々として進まないように見えていましたが、今は29階に向かってどんどん高くなっています。 同時に下の方では瓦屋根を葺いたりと、徐々に形が見えてきました。 がっしりとした基礎工事が出来ていてこその上部構造だということが、見ていて良く分かります。

 これは、歯に置き換えても全く同じです。 虫歯がなくて丈夫な歯をしていても、歯の根を支える骨が緩んでしまっては、美味しいものも噛めなくなってしまいます。 どんなに丈夫な質の歯でも、またどんなに素敵な冠を作っても基礎である歯槽骨がしっかりしていなければ、何にもなりません。 ご自分の歯が今どんな状況なのか良く知って、健康な骨を維持するための正しい歯ブラシの使い方を心がけましょう。 特に40〜50歳代の方は要注意です。



3月の歌舞伎座 (2012/3/16)

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