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 コラム 第165回  2018. 3. 30

咀嚼の効能

  先週末、父の七回忌法要で金沢に行って来ました。 ひと月前には雪に埋まっていた北陸でしたが、ポカポカと春の陽気でした。 雪の名残はどこにもなかったのですが、桜はまだ蕾でした。 東京の桜はもう満開ですが、今年の三寒四温は極端です。体調管理を万全にお過ごしください。

  そんな中でも極端に寒かった21日お彼岸の日に、日本咀嚼学会の集まりに行って来ました。 「咀嚼がもたらす生理学的変化 ―脳・こころに良い咀嚼とは?― 」という演題で新潟大学歯学部の長谷川陽子先生が、とても興味深い講演をしてくださいました。 咀嚼による脳の血流量の変化を記録して、脳のどの部位が活動しているのかを調べたお話でした。 今回はその研究について簡単にご紹介したいと思います。

  咀嚼運動によって活動する脳は、歩くときに働く部位と同じで、脳の活動から見れば咀嚼はウォーキングと同程度の運動だそうです。 咀嚼時の心拍数も90回/分位で比較的楽な運動だとのことでした。 また、硬いものをバリバリ噛むより、適度の硬さのものをゆっくり咀嚼するのが良いようです。 さらに、手の運動の場合は、右手の運動で左脳、左手の運動で右脳の血流量が上がるのに対して、 咀嚼運動では右で噛んでも左で噛んでも、血流量に左右差はないそうです。 この時働いている脳は、旧皮質という本能や情動にかかわる場所です。 ですからどんなに一生懸命噛んでも、脳に血液を送り込む動脈の流れには、あまり変化がないそうです。 これに対して、食物の味や香り、彩りや盛り付けなど見た目の要素が加わるとこの動脈の血流量が増し、 知的領域である新皮質の前頭葉が活性化します。 さらに、細かく噛むことで味が変化し、新たな発見をすることでも知的領域への血流量がますます増加します。 この経験が食に対する期待感をもたらして、旧皮質、新皮質のどちらをも活性化してくれるのだそうです。

  よく噛んでおいしく食べることは認知症予防に効果があると言われていますが、この研究でさらに立証されました。 脳の血流が減少しがちな高齢者こそ、見た目にも美しく、おいしいものを楽しく食すことが、健康長寿の秘訣になるようです。




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