犬歯の話

先日テレビで放送していた踊る大捜査線の映画、学生時代に観に行ったのを懐かしく思いながら視聴しました。その映画の中に、鋭く尖った長い犬歯が特徴的な、吸血鬼を模した噛みつき魔が登場するシーンがあります。もちろん持って生まれた本物の歯ではなく、ポロっと外れて落ちたそれを見る限り、仮歯の材料を使って作られたと思われる6本の前歯。これを装着するだけで吸血鬼のキャラクターになってしまうのですから、おもしろいものです。

犬歯とは前から3番目に位置し、上下左右に各1本ずつ存在する歯のことを言います。前歯にあたる切歯と、奥歯にあたる臼歯の中間の歯で、口を閉じた時の口角の位置に相当します。外側から見るとやや上下に細長い五角形で先端は尖っていて、その形から俗に糸切り歯とも呼ばれます。犬歯の歯根は他の永久歯と比べてとても長いのが特徴です。根の先端が骨の中深くにあるため頑丈で、横からかかる力にも強く他の歯と比べて寿命が長い歯でもあります。

一方で犬歯は歯胚(歯のもととなるもの)が骨の奥深いところに作られるため、生えてくるのが1本奥の第一小臼歯より遅い、という特徴があります。その結果きれいに並ぶためのスペースが不足して、大きく外側にはみ出した位置に生えてしまうことが多くあります。これが、いわゆる『八重歯』です。犬歯が正しい位置に生えないと、顎を動かした際に臼歯にかかる力をコントロールできず、臼歯に負担がかかる原因となってしまいます。臼歯は縦方向の力には強い反面、顎を動かした時にかかる横方向の力には弱いので、犬歯が噛み合うことによって臼歯を守る働きをしているのです。

話は逸れましたが…先述したように左右の口角の位置が犬歯の後ろ側に当たるため、1番前の中切歯から犬歯にかけては外からよく見える歯となります。ですから、それらの歯の形や色・歯並びがその人の印象に大きく関わってきます。鋭く長い形の犬歯を付けただけで吸血鬼に見えてしまうのも、このためなのです。

まもなく迎えるハロウィン。今年も街は仮装した人たちで賑わうのでしょうか。もし吸血鬼の仮装をしている人を見つけたら、思わず口元に目が行ってしまいそうですね。

義歯作製に用いる人工歯(色も形もさまざま)